こころ、ふわり
私よりももっと可愛くてスタイルが良くて性格も素直でまっすぐな子が、芦屋先生のことを本気で好きだと言ったら、私なんて勝てるわけもない。
だんだん自信が無くなっていた。
自信なんてそもそも数ミリしか持ち合わせていなかったけれど。
「萩、お待たせ!」
職員室から菊ちゃんが出てきて私に声をかけてくれたけど、どうにも元気が出なかった。
ものの数分で生気が無くなった私を見た菊ちゃんが慌てたように体を揺さぶってくる。
「萩?どうしたの?この数分の間に何があったの?魂抜けてるよ?」
「き、菊ちゃん……」
おいおい泣くわけにもいかず、とりあえず美術室へ向かいながらさっき見た光景を話す。
ところが、私の予想に反して菊ちゃんは当然のように
「仕方ないよ。生徒に好かれるのは若い先生の宿命でしょ」
と高笑いしていた。
「生物の小宮でさえ、さっき職員室にチョコいっぱい持ち込んでたよ。あんなチビで太っててもモテるんだから、芦屋先生は背も高いし優しいし、どうしようもないよ」
菊ちゃんが言う生物の小宮先生は、去年の春に赴任してきたばかりの23歳の男性教師だ。
「そっかぁ……」
彼女が笑い飛ばしてくれたおかげで少しは気分も浮上してきたけれど、なんとも言えないモヤモヤした気持ちが残った。
そしてさらに迷う。
スケッチブックとペンケースと共に手にぶら下げてきた白い袋。
これを本当に、授業のあとに渡してもいいのかと。