こころ、ふわり


美術の授業が始まり、私は少し離れた席から芦屋先生を眺める。


静物画を描くことになって、先生は色々な種類の果物や野菜を持ってきていた。


「果物とか野菜ってところどころ傷もあったりするんだけど、そういうのも忠実に描いてほしいんだ」


と、先生が生徒たちに説明するのをなんとなく耳に入れる。


芦屋先生、果物とか野菜とか、私はどうでもいいんですけど。


心の中で突っ込みを入れたりして、ため息をついた。


2人一組で好きな果物か野菜を描くということで、みんなが先生のもとに集まってそれぞれ選ぶ。


私はそれには参加せず、菊ちゃんに取りに行ってもらった。


菊ちゃんが持ってきたのはリンゴだった。


リンゴを描きながら、菊ちゃんは私の顔をまじまじと見つめてきた。


「萩が怒ってるの初めて見たかも」


「えっ?」


菊ちゃんに言われるまで、自分が怒っているなんてこれっぽっちも自覚が無かった。


「目の奥がメラメラしてる」


親友なのに、こんな時に菊ちゃんは楽しそうだった。


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