こころ、ふわり


芦屋先生は私から話を聞いているというのもあったし、冷静に見ればどちらが嘘をついているのかはすぐに分かったようで、


「言いたいことはたくさんあると思うんだけど。とりあえず確認させてね。君たちは外に出ようとしたの?」


とても落ち着いた声で、男子生徒に質問する先生。


私も真司も他のみんなも、とにかく黙ってことの成り行きを見届ける。


男子生徒はすぐに


「外に出ようとなんかしてないですよ」


と言った。


それを聞いた芦屋先生は目の前の男子生徒と、少し後ろに立っている女子生徒にニコッと笑いかけた。


「そう。それなら君たちは今すぐ部屋に戻ろう。今なら騒ぎを起こしたことも見逃してあげるから」


これ以上は何も言えないようにうまく言いくるめた芦屋先生に、心の中で拍手を送りたくなった。


おずおず帰っていく2人の生徒を見送ったあと、真司はバツが悪そうに先生を見ていた。


「すみません、言い合いしちゃって」


「大丈夫だよ」


芦屋先生は真司にそう言うと、私の方を向いて「吉澤さん」と呼んだ。


「は、はい」


何を言われるのかと一瞬ドキッとしながら返事を返す。


「吉澤さんは、エレベーター前に行ってくれないかな。やっぱり非常階段にも先生がいた方が良さそうだから。君は俺の代わりにそっちに行ってほしいんだ」


「分かりました」


私は先生の指示を受けてうなずいて、急いでエレベーターホールに向かった。


< 446 / 633 >

この作品をシェア

pagetop