こころ、ふわり
菊ちゃんと隣同士に座っていれば、2時間楽しく過ごせたのに。
後ろの方に座った菊ちゃんに視線を移すと、クラスメイトの女の子と楽しそうに手を出したり鉛筆を使ってふざけたりしていて、羨ましくなってしまった。
隣の真司はチラッと私の手を見ては鉛筆を紙に走らせていて、適当にやると言いながらもそれなりに描いている。
私も描こうと覚悟を決めて、スケッチブックを開くと隣の真司の手を見つめる。
真司の手は男の子らしく少し骨太な感じがした。
最初の描き出しに迷っているうちに、芦屋先生が模造紙にサラサラと鉛筆で描き始めた。
私は手を止めて先生の動きをじっと目で追った。
というか、目を奪われた。
とても、丁寧で綺麗な動きだった。
なによりも鉛筆を持つ芦屋先生の手が、指が、すごく綺麗で長くて、それだけで胸がドキッと鳴った。
迷うことなく筆が進む先生の手は、魔法のようにあっという間に描き出す。
わずか10分ほどで、先生は自分の右手を描き上げてしまった。
先生が描いた、先生の右手は鉛筆を握って絵を描いている今にも動き出しそうなものだった。