こころ、ふわり


何か言いたげな真司を追い払ってくれた澪と若菜が、私を心配そうに取り囲む。


澪は私が芦屋先生と付き合っていたのを知っていたから、私のこの様子で別れてしまったのだと悟ったらしい。


若菜がいる手前、何も聞いてこなかったけれど、きっと聞きたいことはたくさんあったと思う。


「さっき若菜が言った通り、好きな人に振られたの。失恋でこんな顔になっちゃった」


乾いた笑い声を出した私の両肩を、若菜が掴む。


「そいつ、ほんともったいないことしたよ!萩の魅力、分かってないんだね」


「ううん。違うの」


私は首を振った。


「その人は何も悪くないの」


「え……、どうして?」


若菜の問いかけには、答えることが出来なかった。


ただ、芦屋先生をかばいたかった。


私のために別れるという決断をした先生を、悪く言いたくなかったから。


「後悔してない?」


ようやく口を開いた澪が言った言葉は、私には耳が痛かった。


後悔をしていないかと言われると、することだらけでなんとも言えない。


だけど、芦屋先生に出会って1年にも満たないこの短い時間の、どこをどう後悔すればいいかも分からなかった。


私はとにかく澪と若菜を安心させるべく、そのためだけに「後悔はしてないよ」と言った。


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