こころ、ふわり


すると、芦屋先生がいつものように生徒たちの机を順番に周りながらこちらへ近づいてくるのが見えた。


どうせさりげなく私のことなんか飛ばしていくんだ。


そう思ったら、無意識にまた涙が出そうになった。


数日前に菊ちゃんの前であんなに泣いたのだから、もう泣いちゃダメと決めたのに。


涙で視界がぼやける。


その瞬間、彫刻刀を持つ手元が狂った。


一瞬、何があったのか分からずに目を凝らす。


真っ赤な血が左手の指からバッと流れるように、彫っていた木製の板を塗った。


「あ……」


と声が出た時には、後ろの席のクラスメイトが私の血を見て悲鳴を上げていた。


顔を上げると、驚いて振り向く澪と若菜の姿。


そして、同じようにびっくりしたように他のクラスメイトもこちらを見ていた。


もちろん、芦屋先生も。


思わず立ち上がる。
その瞬間、めまいがして立ちくらんだ。


睡眠不足のせいかもしれない。


うまく体が動かなくなって、その場に崩れるように倒れてしまった。


いろんな子の悲鳴が聞こえたけれど、私の意識はそこで無くなった。

< 510 / 633 >

この作品をシェア

pagetop