こころ、ふわり


芦屋先生は私のその態度には何も反応を示さず、いつもと変わらない様子で


「じゃあ、また来週の授業でね」


と穏やかに言って、美術室へ戻っていった。


彼の背中はいつも少しだけ猫背で、でもなんだかそれが彼らしい気もした。


「…………萩」


隣にいた菊ちゃんが私の名前を呼ぶ。


「ん?」


聞き返す私に、菊ちゃんは普段通りの口調で


「萩って芦屋先生のこと、好きなの?」


と尋ねてきた。


え?
私が芦屋先生のことが好き?


私はびっくりして目を丸くした。


「え?好きって?私が先生のことを?」


「うん。だっていつもと違うもん、萩の顔が」


冗談を言っているような感じでもない。
菊ちゃんは、至って真剣に聞いているようだ。


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