こころ、ふわり


廊下の先で、何度もフラフラする玉木先生のことがほっとけなくて、私は若菜に


「ごめん、先に教室に戻ってて」


と言い残して彼女を追いかけた。


「先生、玉木先生」


フラつく足取りの玉木先生に声をかけると、先生は少し驚いたようにこちらを見てきた。


「運ぶの手伝います」


私がそう言うと、玉木先生はパッと笑顔になって「ありがとう」と喜んだ。


半分くらい課題のノートの束を受け取って、2人で廊下を歩く。


「ごめんね、名前はなんていうんだっけ?」


「あ、吉澤です。吉澤萩」


「えっ?」


玉木先生は私が名前を名乗った途端、弾かれたようにビクッと体を震わせて目を丸くした。


「そんなに珍しいですか?」


あまりにも過剰な反応をされたので、なんとなく不思議に思って首をかしげる。


萩という名前は確かに少し珍しいとは言われるけれど。
でも読めない字でもないし、これまで苦労したこともない。


「あ、う、ううん!ちょっとね。そっかぁ。よ、吉澤萩さんね」


明らかに動揺している玉木先生は、さっき自分で言っていた通り平坦な廊下でつまづきそうになっていた。


グラッと揺れる先生の持つ課題を、私が空いている手で押さえる。


なんとか2度目の落下は避けられた。


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