こころ、ふわり


「よ、吉澤さんてさぁ、付き合ってる人とか、いるの?」


階段にさしかかった時に、玉木先生が急にそんなことを私に聞いてきたので、変に思って彼女の顔を見つめる。


玉木先生は分かりやすいくらいに私から目を背けていた。


「いませんけど……」


一応答えておいた方がいいのかと、正直に言った。


「そ、そうなんだぁ」


何も面白いことなんて言っていないというのに、玉木先生はなぜか大きめの作った笑い声を上げるのだった。


すると、階段を降りている最中にどこからともなく芦屋先生の声が聞こえた。


「あ、玉木先生」


私の心臓が跳ね上がるのと同時に玉木先生の顔がみるみるうちに赤くなるのが見えた。


階段の下に芦屋先生がいて、こちらを見上げていた。


芦屋先生は私の姿には気づいていたと思うけれど、特に反応を示すこともなく玉木先生だけを見ていた。


「さっき教頭先生が探してたから、職員室に戻ったら声かけてくださいね」


芦屋先生にそう言われて、玉木先生は「はいっ」と真っ赤な顔のままうなずいた。


人ってこんなに分かりやすく「好き」って顔に出るものなのだろうか。


そんなことまで思ってしまった。


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