こころ、ふわり


「怪我はない?」


芦屋先生は顔を伏せて、落ちた課題ノートを拾いながらそう聞いてくれた。


「無いです。あ、玉木先生は大丈夫ですか?」


そもそも階段を踏み外したのは玉木先生だったので、彼女の方が心配だった。


私が玉木先生を探すと、彼女はまだ階段の途中に立っていた。


なんとなく呆然としたまま、玉木先生が小さい声で「私は大丈夫です」とつぶやく。


さっきの一瞬の出来事が、私にも信じられなかった。


偶然とは言え、芦屋先生が抱きとめてくれるなんて思ってもみなかったから、心臓がバクバクと音を立てていた。


もちろん、こんな状態なのを悟られまいとなるべく平静を装っているつもりだ。


私と芦屋先生が課題を拾っている姿を見て、ハッと我に返った玉木先生がすぐに手伝う。


そんな中、チラッと芦屋先生を見てみたけれど、先生はこちらを見ることはまったく無かった。


相変わらずの涼しい顔。


でも私は気づいてしまった。
先生のしわくちゃのシャツの胸ポケットに、私がプレゼントしたボールペンがささっていた。


別れたのにずっと使ってくれていることが嬉しかった。


あっという間に回収した課題は元通りに私の手の中に戻り、玉木先生が芦屋先生にお礼を伝えていた。

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