こころ、ふわり
そこまで話して、ようやく菊ちゃんはニコッと笑ってくれた。
「別に好きになったっていいと思うよ?先生だろうと誰であろうと。叶う確率は低いかもしれないけど、好きな気持ちは変えられないし、隠し続けるのってつらいじゃない?」
「…………うん」
説得力のある菊ちゃんに言われると、その通りな気がしてしまう。
きっと、心のどこかで菊ちゃんにこのように肯定してほしくて打ち明けたのかもしれない。
「芦屋先生のこと……好きなんだね、私」
私は自分の感情を素直に認めることにした。
ただ、好きだと自覚したところでこれからどうするわけでもなく、何も変えることは出来ない。
だって私は生徒で、芦屋先生は教師だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
だから、このままでいい。
「萩。もうダメだって思ったら先生のことは諦めなよ。萩には真司がいるんだから大丈夫だよ」
菊ちゃんのその言葉で思考が現実に戻る。
「菊ちゃん……そのネタはもういいよ~」
「ネタじゃないんだけどなぁ。あはは、真司も大変だな」
「いいんだってば、もう」
ここで真司の話が出てくると笑いしか起きない。
思わず笑った私に、菊ちゃんはなんだかスッキリしたようで
「あー、でも萩が恋してるって嬉しいな。ちゃんと話してくれて嬉しかったし」
と私よりもルンルン気分のような表情で笑みを浮かべた。
菊ちゃんが笑っていると、私も嬉しい。
私たちはさっきよりも少しだけ足取り軽く、廊下をまた歩き始めた。