こころ、ふわり
その日の放課後、私はずっと渡せずにいた修学旅行で芦屋先生へ買ったメガネケースを渡すことにした。
正確には渡すのではなく、置いておくことにした。
部活が終わって、生徒もほとんどいなくなった廊下を歩いて職員用の玄関に忍び込む。
「芦屋聡」とシールが貼られた小さなロッカーを開けて、白い紙袋に入れたメガネケースを突っ込んだ。
もしも先生がいらないと判断すれは捨ててもらえばいい。
直接渡すよりは先生だって困らないだろうし、私自身も気まずくならなくていい。
白い紙袋の中には、メッセージカードを入れていた。
修学旅行で買っていたお土産を今さら渡して迷惑かもしれない。
それでも自己満足で渡すことにした。
そういう内容の、短い私の手紙。
名前もちゃんと萩と書いておいた。
こんな風に誰かのロッカーに手紙を入れたり物を入れたりするのは、小学2年生の時に友達とふざけ半分でクラスで一番人気のある男の子に連盟でラブレターを入れた時以来だ。
ちょっと懐かしくなりながら、ロッカーの扉を閉める。
さて帰ろう、と身を翻した時、
「吉澤さん?」
と薄暗い廊下から声がした。