こころ、ふわり
誰もいないと思っていたから、私はドキッとして反射的にカバンを抱えた。
そこには玉木先生がいた。
ヒヤッとした汗が吹き出しそうになる。
どこまで見ていただろう?
玉木先生は帰るところだったのか、肩がけのキャメルのバッグを下げていた。
「こんな所で何をしていたの?」
尋ねられても私にはうまい言い訳も思いつかなくて、答えることが出来ない。
間違ってここに来てしまったなんてありえない言い訳も出来ないし、考えているうちに玉木先生が近づいてきた。
「もしかして、芦屋先生に何か用があったとか?」
「えっ?」
思わず否定するのも忘れて聞き返してしまった。
やっぱりさっき芦屋先生のロッカーに紙袋を入れたのを見られていたということか。
ここはシラを切り通して、この場をやり過ごさなきゃ。
「違います。もう帰りますね」
と言って出ていこうとしたけれど、玉木先生がすれ違いざまに
「萩ちゃん」
と急に私の下の名前を呼んだ。