こころ、ふわり
すると、若菜がいてもたってもいられないという顔で、その後輩2人に話しかけてしまった。
「ね、ねぇねぇ。ごめんね、話が聞こえてきちゃって」
「えっ!うわ〜、やばい。聞かなかったことにしてくださ〜い」
後輩たちはサッと表情を曇らせて、私たち3人が先輩だと瞬時に判断したのか恐縮したように目を伏せる。
「ううん!そうじゃなくて。何してたの?芦屋先生と玉木先生」
キラキラと目を輝かせて噂話を聞きたがる若菜を、澪が「ちょっと、若菜」と止めようとするものの、彼女はまったく制止には応えなかった。
「え〜……でも。言ってもいいのかな?誰にも言わないでくださいね?」
ショートカットの子がおそるおそる若菜の顔を見つめる。
こうやって噂話が広がっていくんだ、と知った瞬間でもあった。
「私たち昨日たまたま放課後、教室に戻ったんですけど……」
話し始めた彼女の声を、ひとつ残らず聞き逃すまいと若菜が身を乗り出す。
結局気になってしまって、私も澪も同じように耳をすませた。
「芦屋先生が玉木先生のこと押し倒してたんです」
「えーーーーーっ!」
私より先に後輩の話に過敏に反応したのは若菜だった。
興奮したように何度も「ほんとに?」「嘘じゃないよね?」と確認していた。
「私たちが教室に入った時にはすでにその状態で。すぐに私たちに気づいて、辞めてましたけど……」
もはや後輩たちの言葉は私の耳にはほとんど届かなかった。
ショックを通り過ぎて、予想以上の展開で頭が混乱する。
半分も食べていないお弁当のフタを静かに閉じた。