こころ、ふわり


その日、午前中で面接の練習も終わったので、早々に帰り支度をした私は、まだ芦屋先生がグランドにいるんじゃないかと思って急いで外に出た。


でも、先生はもう野球部の中にはいなかった。


美術室か職員室にでも戻ってしまったのだろうか。


野球部の気合の入った掛け声を横目にグランドの脇道を、邪魔にならないように通り抜けようとした。


「おーい、萩!」


突然声をかけられて、私は少し驚いて声の主を探す。


ジャージ姿の真司がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。


「なんで学校に来てんの?」


真司が不思議そうに尋ねてきた。


「専門学校の面接の練習。星先生にお願いしてやってもらってるんだ」


「あ、そうなんだ」


「真司こそもう陸上部は引退したでしょ?それなのに練習に来てるの?」


むしろ彼の学力で大学受験とか大丈夫なのだろうか、と失礼なことを考えてしまった。


「俺はもう大学進学決まってるからさ、スポーツ推薦で」


サラッと答えた真司の言葉に、私は思わず「うそ!」と目を丸くしてしまった。

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