こころ、ふわり
菊ちゃんは特に追求してくることもなく、
「まぁ、誰でも集中できない時ってあるしね」
と笑っていた。
私はなんとなく菊ちゃんにはあの男の人のことは話さなかった。
それにしてもあの人はなんだったのだろうか。
卒業生だとしたら、事務所の場所が分からなかったのは不思議だ。
いくら私の頭のなかで記憶に残ったからと言って、あの人ともう一度会う確証はない。
まぁ、二度と会うこともないだろう。
真夏にスーツを着た涼しげな顔の、あの人。
この時は特に気に留めてもいなかった。