こころ、ふわり


私がギュッと握った先生の袖は、引っ張りすぎてシワになってしまっていた。


それでも、私の手を振りほどいたり、迷惑がったり、そういうことはしないでいてくれた。


少しすると、またカタン、という音。


やっぱり誰かいるのだろうか。


でもさっきまで通ってきた廊下では、どこの教室も明かりはついていなかったと思うのだけれど。


「ちょっと見てくるからここで待ってて」


芦屋先生が言い出した言葉に、私は慌てて首を振った。


「嫌です、ここに1人はさすがに……ちょっと怖いです」


置き去りにされるのとは違うけれど、それならいっそのこと先生と一緒に音の正体を探したい。


「一緒に行ってもいいですか?」


「うん、分かった」


ほんの一瞬、その瞬間だけ。
袖を掴む私の手に、先生の手が触れた気がした。


一瞬すぎて分からないくらいだったけれど、フワッと、触れたような感触があった。


気のせいかな、と思っているうちに先生が歩き出したので私もついていく。


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