こころ、ふわり
私はこの先の展開が読めたので真司の呼びかけを完全無視し、歩くスピードを緩めることなく廊下を歩いた。
「おはぎ」
聞こえなかったとでも思ったのか、また呼びかけてきた。
これは振り向くまで呼ばれるパターンだ。
「聞こえなーい」
と真司の方は見ずに答えると、彼はあっという間に私の前に体を滑らせて顔をのぞいてきた。
「聞こえてんじゃん」
「どうせまた私のことからかいに来たんでしょ」
たまに「おはぎ」でも「萩」でもなく、「おドジ」と呼んできたりする。
掃除当番の日に、一度だけ教室でつまづいてバケツの水をひっくり返し、私と真司が水浸しになってしまった事があった。
彼はそのことをいつまでもドジな出来事として「おドジ」なんていう新たなあだ名までつけてしまった。
まぁ、「おドジ」と呼んでいるのは彼だけだからまだいいけれど。