こころ、ふわり


すると、教室から廊下へ出てきた真司が私を見つけて声をかけてきた。


「萩、もういいだろ。そろそろ行こう」


「え?」


私はびっくりして思わず聞き返してしまった。


いま、「おはぎ」じゃなくて「萩」って呼んだ?
なんで急に?


不思議に思っているうちに、真司の手が私の手を取った。


芦屋先生のちょっと戸惑う顔が見えた。


「忙しいのにごめんね、引き止めて」


先生はそう言って、廊下を歩いていってしまった。


ポカンとして芦屋先生の後ろ姿を見ていた私は、ふと我に返って真司が突然握ってきた手を慌てて振りほどいた。


「な、なにしてるの急に。びっくりさせないでよ」


またからかってくるつもりだと思って私が真司の顔を見ると、いつもの彼とは違った。


真司はとても真剣な目をしていた。


「さっき言っただろ。バレてるよ」


「な、なにが」


「あいつのこと好きなんだろ」


彼が言うあいつって、芦屋先生?


やっぱり真司は、私が先生のことを好きだと知っていたのだ。


どうして彼が知っているのか、そこまでは分からなかった。


初めて菊ちゃん以外の人に私の気持ちが知られていることがハッキリ分かって、とても恥ずかしくなった。


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