小さな恋のうた
夕方になって、父さんが帰ってきた。
まだ明るいうちに帰ってくるなんて、珍しい。

「レン、キャッチボールしようか?」

そういわれて、喜んで父さんについて行った。


いつもの公園には人もまばらで、のんびり父さんと色々話せて嬉しかった。


「ねえ、父さんは僕ぐらいのときに事務所に入ったの?」

そう聞いたら、ちょうど中一の今頃だったなって教えてくれた。

「自分でやりたくて入ったんじゃないんでしょ?
何でそんなんで続けてられるの?」

父さんは少し悩んで、ボールを思いっきり返してくる。


「はじめは部活感覚だったけどさ、デビューしてからはもう自分だけでやってるんじゃ無いって責任感が湧いてきたっていうか・・・

仕事ってさ、好きでやるもんじゃないんだよ。
自分に出来るか出来ないかってことなんじゃない?
俺はたまたまむいてたみたいだから続けてるだけ。でも今は仕事が好きだよ。」


そんなもんなの?
僕はまだ、好きでもない仕事をするって感覚が、よくわからない。


「好きな事をやってそれを仕事にするってのは、人一倍努力が必要なんだよ。
レンも野球やりたいなら、人の何十倍も頑張らなきゃな。」


そういわれて、僕も思いっきり父さんに向かってボールを返した。
ピシッといい音をさせて、しっかり僕の球を受け止めてくれる。



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