DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「ところがそうじゃない。カメラは二十台だが、設置されたカメラは四台が一組になっていて、五秒間ずつ順々に電波を飛ばすように設定されていたんだ。つまりカメラは二十台でも、壁の四台で一つのモニター、それから中央のスペースを囲むように立っているそれぞれの柱ごとに一つずつのモニターという事なんだ」

「モニターは五つ。したがってビデオも五つで良いということか」

「クックックッ……傑作だな。なんて間抜けな話しだ」

 額に手を当てて和也が笑った。

 向かい側に座っていた赤峰尚人が、グラスを翳しながら和也へ目をやる。

「和也、おまえに影山さんを笑う資格は無いんじゃないか?」

「なにを!」

「おまえだって【ゴールデン・ディアー】をあっさり奪われただろう?彼を間抜けと言うなら、おまえも間抜けて事さ」

「何だと!僕を間抜けだって言うのか!」

 和也は拳を握り締めて立ち上がった。

 怒りの為か、顔は真っ赤だ。

「おやめなさい。仲間内で争うなんて見苦しくてよ」

 白髪を薄い紫に染めた上品な老婦人、永池秋江が二人をいさめる。

 和也と赤峰は、自分の祖母ほども年齢の離れた秋江の言葉に渋々黙った。

「とにかく―― これで【ゴールデン・ディアー】【プリンセス・スノーホワイト】【アップル】の三つがコメットの手に渡ったわけだ」

 沈黙を破って、煙草に火をつけた神部に影山が問い掛ける。

「神部君はどう思うんだね?奴は石に伝わる秘密を知っているんだろうか?」

「まだ分かりませんね。だが、石を集めようとしているのは確かです。今回他の石を一緒に奪ったのは木村や岡島社長、そして影山さん、あなたに対する当て付けでしょう」

「挑発に乗ったって事か」

 ソファーに寄り掛かり、赤峰はブランデーを飲み干した。

「単純な奴だな」

「それともよほど自信があるのか……」

 赤峰の言葉を拾って和也が続けた。

 神部が立ち上がり、ステレオに向かう。

 ターンテーブルに乗せられたLPレコードに針を落とすと、プツッと音がしてバイオリンの音色が流れ出した。

 チゴイネル・ワイゼンだ。

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