DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
(嘘……反応が無い)

「それに、とっても賢そうな目をしてるわ」

 今度は女性の足下に座ったその犬の前にしゃがむ。

「お手」

 犬はすぐに反応して、未央の掌に前足を乗せた。

「わぁ、お利口ね」

 そのままその犬の首に腕を回して軽く抱き締める。

 まるで日向に干した毛布のように暖かい。

「柔らかい……」

 犬は未央の示した思いっ切りの親愛の情に心を打たれたのか、ペロペロと顔を舐め始めた。

「キャッ!くすぐったい!フフッ―― やめてよ、くすぐったいじゃない」

「あなたそんなに犬が好きなの?」

 笑い転げる未央をじっと見ていた女性が突然訊いた。

「ええ、まぁ――」

「じゃあこの犬あげるわ」

「へぇ?」

 やっと反応を示した女性を、未央は呆気に取られて見あげた。

 確かに『あげるわ』と聞えたのだが、信じられなくてもう一度確認してみる。

「今、何て――?」

「この犬あげるって言ったのよ」

(嘘でしょ?私は犬が欲しくてこんな事したわけじゃないのに。何でこうなるの?この人いったい何考えてるの?)

 ハッキリ言って焦った。

 ただ、犬の体重が知りたくて一生懸命話し掛けただけなのに、こんな展開になるなんて思ってもみなかった。

 確かに犬は大好きだ。

 本当なら『喜んで!』と叫んで受け取りたいところだ。

 けれど、自分の家はペット禁止のマンションだし、ましてや千聖の部屋で勝手に飼えるわけが無い。

 もしそんな事をしたら、千聖から即刻退去の命令が下るに違いなかった。

 それなら断るしか無い。

「あの、私はただ――」

 言いかけた未央に、女性はちらりと犬を見て続けた。

「じつはこの犬ね、捨てようかと思ってここへ連れて来たの」

「え?捨てるってこの子をですか?」

 女性の言葉に思わず立ち上がる。

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