DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
 リンスを済ませると、未央はリトルの目をじっと見つめた。

「リトル、ここで待ってて。今バスタオルを持って来るからね」

 そう告げてそっと風呂場を出る。

 しかし、静かに部屋に向かっていた未央の足は、リビングの入り口でピタリと止まった。

 リビングのソファーに横たわって、千聖が眠っていたのだ。

 多分さっきからここに居たのだろう。

 けれど玄関からバスルームへ行く時には、ちょうど背凭れで陰になり見えない位置だったのだ。

(ヤバイ!千聖、こんな所で寝てたんだ)

 そっと傍に寄って顔を覗き込む。

 千聖はよほど疲れているのか、スースーと寝息を立てていた。

 額に掛かるサラリとした真っ黒な髪、長い睫、僅かに開いた唇。

 このあいだこの部屋に響が来て、昔の話しをしていた時の千聖の顔だ。

 何も身構えない本来の――

(千聖の寝顔、可愛い。赤ちゃんみたい)

 未央は暫くの間その場にしゃがんで、千聖の寝顔を見ていた。

 が――

(あ!リトルのこと忘れてた!)

 不意にハッと我に返り、未央は立ち上がった。

 音を立てないように気を付けながら部屋へ駆け込み、急いでバスタオルを捜す。

「あれ?おかしいなぁ……。余分のタオルがここにあったはずなのに。何処へやっちゃったんだろ?」

 それは、あちこちタオルを捜し回って、やっと見付けた時だった。

 リビングの方でガタンと大きな音がした瞬間、未央は思わず飛び上がった。

「わあぁああああっっ!」

「千聖の声!まさかリトルが――」

 フラッシュバックのように頼子の言葉が頭を過ぎる。

『男の人はね、彼以外は絶対駄目みたいなの。彼が友人を連れて来た時は、お尻に噛み付いて大変だったから』

「まさか !?」

 慌てて部屋を飛び出した未央は、その場に凍り付いた。

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