DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「なぁ、向坂。張り込んでたら遭えると思うか?コメットに」
「さぁ……どうかな。場所にもよるよ。俺がティンクに遭えたのは偶然だし」
「そうか」
顎に手を当てて少し考えたあと、溝口は思い切ったように口を開いた。
「あのな、じゃあおまえにだけ話すよ」
辺りを見回して、千聖の耳元に顔を近付ける。
「石があるのは赤峰の所らしい」
「赤峰って、通訳のか?」
「ああ、そうだ。各国のお偉いさんが訪日すると、必ず記者会見に借り出されるあの赤峰尚人だよ。若いけど頭の回転が良いって評判の」
(赤峰尚人―― 【影】を持っているのか?なら、そいつも父さんと母さんを殺した七人の内の一人って事になる)
千聖はポケットに突っ込んでいた片手をギュッと握り締めた。
溝口はそんな事には露ほども気付かぬ様子で続ける。
「確か、赤峰邸は古い洋館だったよな?」
「そう聞いてる。高い塀と、広い庭。赤峰は、大きな屋敷に僅かな人数の使用人と暮らしている変わり者だと」
「ああ」
「あと、絵画の収集が趣味とも」
「絵画か。いかにも金持ちの趣味って感じだな」
溝口は肯いた。
千聖は今度は少し黙ってから口を開いた。
「溝口」
「何だ?」
「以前、窃盗犯が軍用犬として訓練された犬に噛み殺されたって話しあっただろ?覚えてるか?俺達がまだ大学生の頃だが」
千聖の記憶力は群を抜いている。
一度目にした事、耳にした事は正確に覚えているのだ。
だから、場所や内容の間違いも無い。
溝口は天井を見上げながら暫し考えて答えた。
「―― そう言えば聞いた事あるな。何件もの豪邸を荒らし回っていた窃盗犯が、放し飼いになっていた三匹のドーベルマンに噛み殺されたっていうやつ。……そうだ、『ケルベロス事件』だ。でも、それがどうかしたのか?」
拾い集めた記憶の欠片を組み立てて答え、溝口は両肘を膝に乗せて顎の下で手を組んだ千聖を覗き込んだ。
「さぁ……どうかな。場所にもよるよ。俺がティンクに遭えたのは偶然だし」
「そうか」
顎に手を当てて少し考えたあと、溝口は思い切ったように口を開いた。
「あのな、じゃあおまえにだけ話すよ」
辺りを見回して、千聖の耳元に顔を近付ける。
「石があるのは赤峰の所らしい」
「赤峰って、通訳のか?」
「ああ、そうだ。各国のお偉いさんが訪日すると、必ず記者会見に借り出されるあの赤峰尚人だよ。若いけど頭の回転が良いって評判の」
(赤峰尚人―― 【影】を持っているのか?なら、そいつも父さんと母さんを殺した七人の内の一人って事になる)
千聖はポケットに突っ込んでいた片手をギュッと握り締めた。
溝口はそんな事には露ほども気付かぬ様子で続ける。
「確か、赤峰邸は古い洋館だったよな?」
「そう聞いてる。高い塀と、広い庭。赤峰は、大きな屋敷に僅かな人数の使用人と暮らしている変わり者だと」
「ああ」
「あと、絵画の収集が趣味とも」
「絵画か。いかにも金持ちの趣味って感じだな」
溝口は肯いた。
千聖は今度は少し黙ってから口を開いた。
「溝口」
「何だ?」
「以前、窃盗犯が軍用犬として訓練された犬に噛み殺されたって話しあっただろ?覚えてるか?俺達がまだ大学生の頃だが」
千聖の記憶力は群を抜いている。
一度目にした事、耳にした事は正確に覚えているのだ。
だから、場所や内容の間違いも無い。
溝口は天井を見上げながら暫し考えて答えた。
「―― そう言えば聞いた事あるな。何件もの豪邸を荒らし回っていた窃盗犯が、放し飼いになっていた三匹のドーベルマンに噛み殺されたっていうやつ。……そうだ、『ケルベロス事件』だ。でも、それがどうかしたのか?」
拾い集めた記憶の欠片を組み立てて答え、溝口は両肘を膝に乗せて顎の下で手を組んだ千聖を覗き込んだ。