DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「あれは赤峰の屋敷で起きた事件だ」

「えっ――」

「当時、窃盗犯が犬に殺されたのは赤峰がけしかけたからだと言われて、結構話題になった。でも結局真相は分からず――」

「うーん……もしそれが本当なら、コメットも危ないって事か」

 思わず唸った溝口の言葉に千聖も肯く。

「そうだな。けしかけたというのが本当なら、そういう結果も絶対無いとは言えないな」

 ドーベルマン――

 しかも軍用犬として警備及び哨戒のため、そして戦闘のために特別に訓練されたもの。

 もしもそんな犬に襲われたら、スピードと運動能力・攻撃力で圧倒的に劣る人間が勝つ方法は限られている。

 そう、昔から言われている『丸腰でドーベルマンに対峙すれば人間は勝てない』というそれだ。

 そして、短時間で手懐けるのもおそらく不可能だろう。

 しかも、赤峰邸のその犬が事件後どうなったのか、また今現在も犬が居るのかも分からない。

 煙草を消して、溝口は溜め息を付いた。

「そんなんじゃあ、さすがのコメットでも諦めるか。命を懸けてまで石を盗むって事は無いだろうし」

「いや。コメットは必ず石を狙う」

「向坂――」

 溝口が驚いたように千聖を見る。

「【影】を持つ石は必ず狙われる。そして絶対に盗まれるよ」

 自信ありげな千聖の言葉に、溝口も色めき立つ。

「だったら上手くいけばコメットをキャッチできるかな?」

「それにはまず赤峰の屋敷に関することを調べて、侵入ルートを割り出さなきゃ駄目だ。そうすれば可能だ」

 千聖は溝口が問い掛けた事とは別の意味で、必ずそれが出来ると確信したように呟き、ニヤリと笑った。



…☆…

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