DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
高い塀の上にしゃがんで双眼鏡を覗く。
まるで中世のヨーロッパ貴族の住居を思わせるその建物は、アンティークの置物のように佇んでいた。
空に掛かる丸い月がよく似合う。
門と建物の入り口の中間には立派な噴水があり、涼しげな音を立てている。
「凄いなぁ。こんな所に住んでいる人はどんな服を着て暮らしてるんだろう。まさかドレスって事は無いだろうしね」
未央は今時有り得ない情景を想像して思わず笑った。
「建物は広いし部屋数も多そうだけど、防犯ベルとかカメラは似合わないなあ。どちらかと言うと、落とし穴とか槍が飛び出す穴とか牢屋とか拷問部屋とかがあったりして」
まるでRPGゲームかファンタジーに出て来る城のような外観に、未央の想像は膨らむばかりだ。
「せっかく来たんだから、ちょっと中も覗いて来てみようかな」
仕事を手早く済ませるためには、やはり予備知識は大切だ。
ウエディングドレスの回収の時のような失敗をしないためと称して、未央は下見をする事にした。
スルスルとロープを下ろして庭に降りる。
手入れの行き届いた芝生はフカフカしていて、歩いていても気持ちが良い。
辺りを警戒しながら蔦の絡まる建物に近付くと、未央は明かりのついていた窓に手を掛けてそっと中を覗いた。
人影は無い。
広い部屋の正面の壁に、大きな絵が飾られている。
綺麗な女性の肖像画だ。
他の壁にも風景画や静物画がある。
「標的はここには無いみたい」
そう――
今回の標的は絵画。
森下伸二郎という有名な画家が描いた、未発表のもの。
2号サイズの風景画だ。
依頼人は、その画家の孫に当たる人物。
今までとは違う時価数百万円は下らない品物に、未央は最初仕事をする事をとまどった。
しかし、何処か自分と似たその絵に纏わる話しに心を動かされたのだ。
「祖父の形見を取り返してください」
そう言った少女に微笑んで、未央は依頼を受けた。