DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「それにしても広い家……」
これでは標的を捜すだけでも一苦労だ。
未央はピョンと飛び降りて、別の窓に近付いた。
また窓枠に手を掛けてグイッと身体を持ち上げる。
今度は人影が見えて、慌てて頭を引っ込めた。
(わぁぉ……焦ったぁ――)
ダイニングルームなのだろう。
大きなテーブルで、一人の若い男性が食事をしていたのだ。
もう一度レースのカーテンが掛かっている所から覗いてみる。
(わぁ……綺麗な人。年齢は千聖より少し上くらいかな。でも、あの人がここの主、赤峰尚人だとすると、依頼人を騙して森下さんの絵を奪ったのはあの人って事なんだ。悪い人には見えないのにな)
未央はもっと別の部屋も覗いてみる事にして、窓から離れた。
直後に室内では一人の初老の男性が、その若い男性に近付いて来た。
「尚人様。お食事中失礼します」
「島野か。どうした?」
赤峰が膝に乗っていたナプキンで口元を拭く。
初老の男は他に誰も居ないにも関わらず、赤峰の耳元へ口を近付け、なおかつ片手を自らの口に当てて囁いた。
「ネズミが一匹迷い込んだようです」
「奴か?」
「いいえ、ほんの子ネズミです。しかも珍しい事にメスだとか」
「子ネズミ?」
「はい。年の頃は十七、八ほどかと」
「そうか――」
赤峰はフッと笑った。
「ディモスを放ちますか?」
「―― いや、いい。好きにさせておけ。今日は下見だろう。今度来た時に俺がこの手で――。ディモスに与えるならその後でいい」
「畏まりました」
島野は丁寧に頭を下げると、その場を後にした。
「メスの子ネズミか……ティンクだな。何を回収しに来るのか―― とにかく楽しみが一つ増えたことは間違い無いな」
赤峰はニヤリと笑って、血のように赤いワインを飲み干した。