DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
バサッっと音を立てて一本のロープが高い塀から垂れ下がると、小さな影が降りて来た。
「お邪魔しまぁす……」
影は呟いて芝生の上を静かに屋敷に向かい、このあいだと同じように突き出したテラスを見上げた。
左手を真っ直ぐ伸ばす。
ピシッと音がして飛び出したワイヤーが、そのテラスの手摺りにクルクルと巻き付いた。
それを伝って、レインジャー部隊のように二階に上がる。
テラスのある部屋は、やはりこのあいだと同じように人の気配は無い。
未央はニッコリ微笑んでそっと窓を開けた。
真っ暗な部屋を通り廊下に出ると、今日は何故か廊下には明かりがついていなかった。
「あれ?節電かな?こんな大きな御屋敷だもの。電気代が大変なのかも」
勝手な想像をしながらあの部屋に向う。
途端に未央からは後ろになる廊下の隅で、黒い影が動いた。
「フン……フンフン……」
影は床に顔を擦り付けるようにしてさっき未央が出て来た部屋の前を嗅ぎ回ると、ふいに未央が向かったのとは反対側に歩き出した。
突き当たりの角を曲がって、さらに奥へ向かう。
そして一つの部屋の前に立ち止まり、レバーに前脚を掛けた。
「クゥン……」
開いたドアの隙間から入り、鼻を鳴らす。
リクライニングの椅子にゆったりと腰掛け、ワインを味わっていた男がその声に身体を起こした。
「ディモスか?」
「クゥン……」
ディモスと呼ばれた赤い首輪の犬は、もう一度鼻を鳴らした。
「そうか。来たか」
赤峰は立ち上がってニヤリと笑った。
「いいかディモス。今は傷付けるな。逃がさないようにするだけでいい」
「ワン」
「分かったら行け」
頭を撫でられ、犬は部屋を出た。
今度は真っ直ぐ未央の居る部屋に向かう。
そしてドアから少し離れたところで床に腰を下ろし、見張るようにドアを見つめた。