DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「ねぇ……そこまで分かっているなら教えて。どうしても……他のどんな物に代えてもこの絵が欲しいの」
「方法は……無いことはない。だが――」
コメットは片手で額にかかった髪を掻き揚げ、溜め息をついた。
「だが余り勧められる方法じゃ無い」
「教えて、なんなの?どんな方法なの?私で出来る事ならやってみたい」
「覚悟は出来ているって事か。見かけに寄らずいい度胸だな」
(えっ?―― 今の言葉……前に何処かで)
一瞬怪訝そうな顔をした未央を他所に、コメットはフッと笑った。
「仕方が無い。そこまで言うなら教えてやろう。やるかやらないかは、あんたが自分で決めればいい。落ち着いてよく考えろ」
大きく息を吐く。
それからまた少し間を置いて、コメットは口を開いた。
「赤峰尚人に近付くんだ。奴は女好きで有名だ。だから女である事を最大限に利用して、それと引き替えにこの絵を強請れ。そうすれば、あるいは手に入れられるかもしれない。俗に言う『ハニートラップ』ってやつだ。どうだ?あんたに出来るか?」
(女である事を最大限に利用する。それって――)
未央は拳をギュッと握り締めた。
(それって――)
「悪い事は言わない。諦めるんだな。父親が描いた母親の絵を、取り返したいあんたの気持ちは痛いほど分かる。だけどそんな事をしてその絵を手に入れても、亡くなった両親は喜ばないだろうから」
月に雲がかかり、室内がまた暗闇に支配される。
コメットは肩を竦めると、クルリと背を向け窓に歩み寄った。
「それじゃあ俺はもう行くよ。あんたも早く依頼の品を持って逃げた方がいい。ケルベロスに殺人指令が下らないうちに」
身軽に窓枠に飛び乗る。
「機会があったらまた会おう」
そして暗い空に身を躍らせ―― 消えた。
(コメット――)
未央はコメットを見送ると、もう一度絵に目を遣った。