DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
 未央の行く手を阻むように周りを回る。

 いつ飛びかかられるかと思うと、生きた心地がしない。

 それでも未央は歩みを止めずに、テラスのある部屋に向かった。

 ドアを開け、犬を廊下へ置き去りにして部屋へ滑り込んだところで、ホッと胸を撫で下ろした。

「さあ、早く帰ろう」

 小さく呟きテラスに出る。

 そしてすぐに庭へと滑り降りた。

(後は塀に垂らしてあるロープまで行けば――)

 未央がそう思った時だった。

 少し離れた茂みの中で、何かの動く気配がした。

 急いで身構えた未央の髪を風が揺らして、同時に月が現れる。

 射して来た光が浮かび上がらせたのは、さっきの黒い犬。

 心臓が大きく波打った。

(違う。さっきの犬じゃない。黄色い首輪だ)

 今度は背中に気配を感じて振り向く。

 もう一匹―― いや、二匹。

 一匹はさっきの赤い首輪の犬。

 そしてもう一匹は、銀色に光る金属の首輪を付けている。

 未央はその犬を見てゾッとした。

 明らかに他の犬とは違う、凶暴な雰囲気がしたのだ。

(この犬がケルベロス?)

「とにかく進まなきゃ」

 未央は自分に言い聞かせるように呟いた。

 一歩踏み出す。

 途端に犬は「グルルル……」と警告の声を発した。

「動くなって言ってるの?」

 もう一歩踏み出す。

 また唸り声を上げた。

「やっぱり動くなって言ってるのね。でも私帰らなくちゃいけないの。お願い、ここを通して」

 そんな事を言っても分からないと思いながらも、未央はそうする事しか思い付かなかった。

 その時、テラスのある部屋に明かりが灯り人影が現れた。

 赤峰だ。

 赤峰は手摺りに凭れ、下を覗き込んだ。

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