DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 声を上げたコメットに向かって、黄色い首輪の犬が飛び掛かる。

 コメットは、手にしていたアトマイザーを犬の顔へと投げ付けた。

 興奮状態の犬が反射的にそれを口に銜え、噛み砕く。

 途端に中から噴出したガスで、犬はアッという間に酔ったようにふらついて芝生に横たわった。

「あと一匹だ!逃げろ!」

「でも!」

「早くしろ!走れ !! 走るんだ!」

 何度も怒鳴られ、未央はやっと塀に向かって走り出した。

(逃げる――?私だけ?コメットは?私を助けるために来てくれたコメットを置いて行く?そんな事出来ない!)

 少し走って振り返る。

 コメットは立ち止まった未央に気付いて、もう一度怒鳴った。

「行けぇええっ !! 俺に構うなっ!」

 その声に弾かれたようにまた走り出す。

 そして垂らしてあったロープにしがみつくと、一気に登って塀の外に出た。

 そのまま人通りのある道を目指して、未央は再び顔を出した月の光の中を走り続けた。



…☆…


 ティンクが塀の外に消えると、千聖はティンクを気にしていたケルベロスに小石を投げ付けた。

「おまえの相手は俺だ。主人の命令を聞いただろう?さっさと実行したらどうだ」

 声を掛けながら上着を脱いで左腕に巻き付け、腰に挟んであったレーザーの遮断に使った金属の棒を取り出す。

「ガゥウゥゥ……」

 言われた事が分かったのか、ケルベロスが身体を低く構えて千聖を牽制する。

「ケルベロス!殺せ!そいつを殺すんだ !!」

 そして大声で叫ぶ赤峰の声に、ゆっくりと動き出した。

 獲物を狙う猛獣のように千聖の周りを回る。

 月が雲に隠れ、辺りがスッと暗くなった瞬間――

 二つの青い光が、宙に舞い上がった。

 千聖を押し倒し、首を目掛けて真っ赤な口を開く。

 それを塞ごうとして、口の前に翳した千聖の左腕に牙が突き立つ。

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