DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
小さな物体が芝生の上を走っている。
野ネズミだ。
当然ケルベロスの注意がそちらに向く。
狩猟犬の悲しい性。
「おまえを待っていたんだ!」
途端に千聖は素早く手を伸ばし、余所見をしていたケルベロスの頭に上着を被せた。
「ガゥウウウ!」
ドーベルマン特有の細面の顔が、袖の部分にスッポリと嵌り込む。
それを外そうとしてもがけばもがくほど、上着の破れた穴に前脚や顔が引っかかりケルベロスはパニックになった。
千聖は落ちていた棒を拾い上げ、真っ直ぐに塀に向かって走り出した。
柔らかい芝生に足が取られる。
上着を外したケルベロスが後を追って来る。
今度掴まれば、確実に噛み殺される。
数年前のあの事件の窃盗犯のように。
心臓が大きく波打った。
遥か彼方に感じていた塀が目の前に迫って来る。
次の瞬間、千聖は膝を深く曲げ地面を思い切り蹴った
一歩二歩と垂直な塀を駆け上がる。
塀の上へ右手を伸ばし、跳び箱を叩くようにして身体を引き上げる。
続けて今度は曲がりきっていた腕でそれを突き放し――
そして……外へと姿を消した。
後に残されたケルベロスは、ワンワンと吠えながら塀の下を行ったり来たりするだけだった。
…☆…
野ネズミだ。
当然ケルベロスの注意がそちらに向く。
狩猟犬の悲しい性。
「おまえを待っていたんだ!」
途端に千聖は素早く手を伸ばし、余所見をしていたケルベロスの頭に上着を被せた。
「ガゥウウウ!」
ドーベルマン特有の細面の顔が、袖の部分にスッポリと嵌り込む。
それを外そうとしてもがけばもがくほど、上着の破れた穴に前脚や顔が引っかかりケルベロスはパニックになった。
千聖は落ちていた棒を拾い上げ、真っ直ぐに塀に向かって走り出した。
柔らかい芝生に足が取られる。
上着を外したケルベロスが後を追って来る。
今度掴まれば、確実に噛み殺される。
数年前のあの事件の窃盗犯のように。
心臓が大きく波打った。
遥か彼方に感じていた塀が目の前に迫って来る。
次の瞬間、千聖は膝を深く曲げ地面を思い切り蹴った
一歩二歩と垂直な塀を駆け上がる。
塀の上へ右手を伸ばし、跳び箱を叩くようにして身体を引き上げる。
続けて今度は曲がりきっていた腕でそれを突き放し――
そして……外へと姿を消した。
後に残されたケルベロスは、ワンワンと吠えながら塀の下を行ったり来たりするだけだった。
…☆…