DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
破れたTシャツの胸元を絵で隠すようにして、未央はやっとの思いでマンションまで辿り着いた。
管理人の山岸に気付かれないようにエレベーターに乗る。
鍵を開けて部屋に入ると、未央はそのまま玄関に座り込んだ。
リビングは暗かったが、水の音がしていた。
きっと千聖がシャワーを使っているのだろう。
膝を立てて、額を押し付ける。
いつの間にか涙が溢れて、頬を濡らしていた。
恐さが蘇って身体がガタガタと震える。
(コメット――)
ふいにコメットの事が頭を過ぎった。
(コメットはどうしただろう?ケルベロスは――?まさか!)
恐ろしい考えを否定しようと、未央は首を横に振った。
(大丈夫。あの人ならきっと大丈夫)
自分に言い聞かせるように頭の中で呟きながら、立ち上がってリビングへ向かう。
ソファーに腰を下ろすと、膝を立てて座り、額に手を当てた。
(でも、何故コメットは私を助けてくれたんだろう?今日赤峰の屋敷でコメットに遭ったのは偶然かもしれない。だけど、あの時には彼はもう既に石を持っているようだった。だったら直ぐにでも屋敷をあとにしていたはずだ。なのに彼は近くに居た。何処かで見ていた。私を助けてくれた。何故――?)
膝に額を乗せ溜め息をつく。
(『巻き添えを食うのは嫌だからな』コメットはそう言った。なのに犬から救ってくれた。知らん顔して見過ごす事も出来たはずなのにコメットは――。何故なんだろう?)
考えあぐねていた未央の耳に、バスルームの方からカタンと音が聞えた。
未央は千聖が来ないうちにと慌てて部屋に入り、絵をチェストに立て掛けてTシャツを着替え、ベッドに倒れ込んだ。
(絵……パパの絵があんな所にあるなんて。そうだ、絵の部屋でもコメットは私を助けてくれた。部屋の仕掛けを知らなければ絶対にあの絵を――)