DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
『裁縫箱のピンクッションのようになっちまうのさ』
ゾッと身震いがして、自分で自分を抱き締める。
そのまま窓の向こうの月をぼんやりと眺めた。
(コメットの声、何処かで聞いた事がある。何処?)
『覚悟は出来ているって事か。見かけに寄らずいい度胸だな』
(あの言葉も聞いた事がある。それに――)
『落ち着いてよく考えるんだ』
(あれも)
『行けぇええっ!俺に構うなっ!』
(あれも………)
次々に記憶に蘇るコメットの言葉を反芻していた未央は、ガバッと起き上がった。
「俺に―― 構うな……?まさか――!」
胸がドキドキした。
「まさか……そんな事。でも声が似てるし、そうだとしたら辻褄が合う。ここでウサギの影のある石の話しをした時の千聖の態度も、今日パパの絵の話しをした時の何とも言えない変な感じも。そうだ、あの言葉はウエディングドレスを回収した時に聞いた言葉だ。それに初めて会った場所は【ゴールデン・ディアー】っていう石が盗まれた場所に近かった。コメットは千聖?―― だったらあれも千聖が関わっているはずだわ」
未央は何かを思い付くと、ベッドから降りて足音を忍ばせてドアに寄った。
少し開けてリビングの様子を窺う。
白いバスローブをはおった千聖が部屋に入って行くのが見えた。
そっと部屋を出て物置に行き、古い新聞を捜し出す。
「あった。キングデパートの記事」
『キングデパート秘宝展。開催日前夜にコメット急襲、目玉失い打撃受ける。挑発に刺激受けたか?警備の盲点突く』
影のある宝石は、一日も展示されないうちにコメットに持ち去られた。
二十台もあった監視カメラの位置や警備システムを、彼はどうやって知る事が出来たのだろう?
秘宝展開催の記事を書いたのは千聖だ。
それなら展示場を見ていたはず。
カメラの位置や警備の話しも知っていただろう。
だから公開前日に――