DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 その時、赤峰の屋敷から戻ったあと、未央が戻らないうちにと急いで脱ぎ捨てたシャツが目に飛び込んで来た。

 襟の近くに何かが付着している。

 千聖は手を伸ばして、それを摘み上げた。

 明るい茶色の動物の毛――

「なんだ?もしかして……リトルの毛?そうか―― ケルベロスが俺を噛み殺さなかった理由はこれだったのか。だったらリトルとあいつに礼を言わなくちゃいけないな」

 千聖はチラリと後ろのドアを見てフッと笑った。

「これを知ったら赤峰の奴きっと悔しがる。あんなに訓練された犬が、まさかこんな事で仕事を忘れるなんて思わなかっただろうから。犬は女好きの飼い主に似たって事か。最悪だ―― フッ……クックックッ……ハハハ」

 千聖はそのまま床に寝ころび、声を上げて笑い出した。

 ケルベロスが自分を噛み殺さなかった理由が、たった一匹のメス犬の匂いだったという事が可笑しくて仕方なかったのだ。




…★……★……★…


☆NEXT☆

「千聖、何処に行ってきたの?」

「仕事だ」

「―― 嘘、女の人と会ってたでしょ。だってほら、―― お化粧の匂いがする」

「悪かったな、俺の勝手だろ。人のする事に口出すな」

「ね、何してきたの?教えて」

「教えて欲しいのか?」

「うん、教えて!」

「じゃあ――」

「きゃぁああ!何するの!」

「教えろって言ったくせに……」


  MISSION 16
  ― クレオパトラの恋人 ― へ続く。



< 152 / 343 >

この作品をシェア

pagetop