DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 16 ― クレオパトラの恋人 ―


「今日はまたえらく人が多いな」

 米村は食べ物をいっぱい乗せた皿をフォークでつつきながら、神部に話し掛けた。

「ああ。マスコミもかなりの人数が来ているようだ。ま、当然といえば当然だろう。永池物産の孫と、城東銀行の頭取の娘の婚約披露だからな」

「それにしてもこんな席にマスコミまで入れるなんて、秋江さんも変わってるよな」

「まあ、隠せば探りたがる奴らだから、こうやって披露しておいた方がかえって良いのかも知れない」

 神部はブランデーグラスを持ったままで、さっきからガツガツと食べ物を口に運んでいる米村を見て眉をひそめた。

 ここは故・永池物産会長、永池栄三郎の屋敷。

 その孫の婚約を披露するために執り行われたパーティーの会場だ。

 政界、財界、芸能界を問わず、有名人が多数集まっている。

 神部はあちこちで小さな人垣を作っているそれらの人物を見回して、ブランデーを口に運んだ。

「ところで米村、あんたの所の娘はどうなんだ?」

「どうって……うちのはまだまだ子供さ」

「もう十九だろう?」

「まだ十九だ。今日だって猫を連れて行くってきかないんだから」

「猫?」

「ああ、このあいだのあいつだよ。ほら、あそこにいる」

 米村は、ホールの隅の方で白い猫を抱いて立っている娘を指さした。

「猫か。フッ……」

 神部はコメットに影の石を持ち去られた晩の、ビー玉に足を取られて思いっ切り床に腰を打ち付けた米村を思い出し、笑いを噛み殺した。

 米村は神部が何を思ったのか分かったようで、不満げに口を尖らせた。

「笑い事じゃ無いよ。あれから暫く腰が痛くて、猫を見るたび頭に来て――」

「分かったよ。だがこんな所にまで連れて来るなんて、おまえの娘はよほど猫が好きなんだな」

「好きだし、それにあの猫は娘の自慢なのさ。甘やかしているもんだから、私の言う事なんかききやしない。人を馬鹿にして名前を呼んだって無視だよ、無視」

 肩を竦めた米村を見て、神部はまた笑った。
< 153 / 343 >

この作品をシェア

pagetop