DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「ま、変な男に夢中になられるよりは良いけど」
米村の愚痴を聞きながら、再び娘に目をやる。
ちょうどその時、ふいに娘の腕から猫が飛び降りた。
慌てて追い掛ける娘をよそに、まるでついておいでと言わんばかりにスタスタと歩いて行く。
そして少し離れた壁際にいた黒いスーツの若い男に近寄ると、足に摩り寄った。
スラリとしたその男が猫を抱き上げる。
神部はフッと笑った。
「猫好きは他にも居たみたいだぜ」
「えっ?」
視線の先では、米村の娘が男に向かって歩み寄っていく。
「いいのか?放っておいて」
「構わないさ。娘はいつも『私はこの子が好きになった人と結婚するの』って言ってるんだ」
「何だそれ?」
奇妙な発言に、神部はその主である米村を見た。
「あの猫を連れて嫁に行くんだと。だけど、いくらあの猫を利用して娘に近付こうとしたって無駄だよ。あの猫は誰にも懐かないから」
米村は娘を見ようともせずに、片手をヒラヒラと振った。
猫が擦り寄った男へ、神部が再び視線を向ける。
「ほう……。そんなに気難しい猫なのか」
「ああ。我が家の女王様さ」
「女王様のお気に召すような男はそうは居ないって事か……」
呟いて、神部はニヤリと笑った。