DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「瞳さん?綺麗な目が印象的な君に良く合っている」
「お上手ね。そうやって女性を口説くのかしら?」
瞳は少し肩を竦めてから、嬉しそうに口角を上げた。
「そう思ったから言っただけです。誰にでも言うわけじゃ無い」
「そう?じゃあそういう事にしておきましょう」
二人は顔を見合わせ微笑んだ。
ゆったりとしたワルツが流れる中、瞳は暫く千聖を見ていたが、ふいに傍のテーブルに何も乗っていないのに気付いて訊いた。
「何も召し上がっていらっしゃらないの?」
「ええ、今日は仕事でここへ来ているので」
「お仕事?何のです?」
「申し遅れました。僕は関東日報の記者なんです。だから今日はこちらの永池物産のお孫さんと、城東銀行頭取のお嬢さんの婚約披露を取材に」
「あら新聞記者さんなの」
驚いたように目を見張った瞳の様子に、今度は千聖が訊く。
「そんなに不思議ですか?」
「だってとても記者には見えませんわ」
「じゃあ何に見えます?」
「そうね……」
瞳が頬に手を当てて少し考える。
それから少し背伸びをして、千聖の耳元に顔を寄せて来た。
「アルセーヌ・ルパンのような怪盗かしら?盗むのは物では無く……」
「物では無く?」
「女性のハートとか」
途端に、千聖は額に手を当てて笑った。
「それは素敵だ。でも僕には盗めそうも無い」
「そうかしら?あなたになら盗まれてもいいって思う人が、沢山いるんじゃないかしら」
「まさか――」
「例えば私みたいに」
「え……」
「と言うより、もう盗まれてしまったかもしれませんわ」
瞳は呆気にとられている千聖をじっと見つめると、ふいに手を掴んだ。