DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 
「ちょっとあちらへ行ってみません?」

「でも、仕事が――」

「あのお二人に関する事なら、私が知っている事を全部お話ししますわ。ですから―― ね?それならよろしいでしょう?」

 強引に手を引っ張られ、千聖は腕の中に大人しく収まっていたクレオパトラの顔を覗き込んだ。

「それなら御一緒しましょうか。お嬢様」

「瞳よ」

「では、瞳さん――」

 右腕を軽く曲げて差し出す。

 満足そうに微笑んで、瞳は腕を絡ませた。



…☆…

 月明かりに照らされた中庭は、大広間とは正反対に静まり返っていた。

 噴水を取り囲むように置かれたベンチには、若いカップルの姿が目立つ。

 ある者は語らい、またある者は一言も話さずに二人の世界を楽しんでいる。

 瞳は噴水の傍のベンチには目もくれずに真っ直ぐ進むと、一番奥の木陰のベンチに千聖を座らせた。

 自分も隣へ腰を下ろす。

「ここなら誰の目も気にせずに、楽しく過ごせてよ」

「そういう感じですね。それじゃあさっそく話して頂けますか?」

 瞳がニッコリ微笑む。

「何をですか?」

「何をって、永池物産の――」

 肘まである白い手袋を嵌めた手で、瞳が千聖の唇を押さえる。

「こんな所でそんな話しですか?やめません?そういうつまらない話し。それより今は二人の時間を楽しみましょうよ」

 そしていきなり胸に凭れ掛かった。

 噴水傍のベンチの人影が一つに重なる。

 千聖はそれを見ながら、笑みを浮かべ口を開いた。

「見かけと違って随分積極的な人だ」

「あら、見た目はどう見えますの?」

「もっと古風な方かと」

「積極的な女性はお嫌い?」

 瞳に目をやって答える。

< 157 / 343 >

この作品をシェア

pagetop