DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 次々とページを捲る未央の手が突然止まる。

「あった――」

「どれ?」

 隣で別のファイルを見ていた響が覗き込む。

 それはトップ記事となって、大きく掲載されていた。

「客船ホワイトローズ号沈没――。乗船名簿により確認された行方不明の乗客は、以下の二名」

 紙面を指で追っていた未央は、思わず目を閉じた。

 代わりに響が文字を追う。

「『宝石商・向坂裕一、香里夫妻――』これ、向坂のおじさんたちの事だ」

 響の声を聞きながら、未央は考えていた。

 千聖は―― その時、今の自分と同じ歳だった千聖は、どんな思いでこの記事を読んだのだろう?

 どうか間違いでありますように……どうか無事で見つかりますように――

 きっと数え切れないほど、何度もそう祈ったに違いなかった。

 けれど、結果は――

 未央は大きく溜息を吐いた。

 その耳に響の声が聞こえてくる。

「救助された人が事故当時のこと話してる。『会社員、中西勉さん。突然何かが爆発するような音がして、急いで甲板へ出ました――』えっと―― それから……『米村聡吉さん――』」

 未央は思わず顔を上げて響を見た。

「響、今なんて言った?」

「『初めての船旅――』」

「うぅん、その前、それを話した人の名前」

「あ?ああ、米村聡吉って人」

(米村聡吉……ガラスの箱に入った、影の石を持っていた人だ!)

 急いで紙面を覗いてみる。

「ね、他に助かった人の名前は分かる?」

「ここに載ってるけど……『救助された方の搬送先の病院は――』」

 心臓がドキドキする。

 未央はそれを宥めるように、胸を押さえた。

(赤峰尚人・影山十三・藪澤和也――。居る。みんな居る。影の石を盗まれた四人がねみんな千聖の両親と同じ船に乗ってる。宝石商の千聖のお父さんと、宝石を持つ四人――)

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