DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 暫く黙ったあと、未央は思い立ったように口を開いた。

「ねえ、響。千聖のお父さんが宝石商だって事知ってた?」

「うん、一応な。俺、その事で母さんにこっぴどく叱られた事あるから」

「なに?それ」

「いやぁ……じつは――」

 響は頭を掻くと、小さな声で話し始めた。

「俺さ、小学生の時一度だけ向坂さんの部屋へ行った事あるんだ。廊下で遊んでたら、おばさんがケーキを食べにいらっしゃいって。行ったら千聖はまだ学校から帰っていなかった。『おばさん一人で淋しかったの』って紅茶を入れてくれた。すごく美味いケーキでさ、俺調子に乗って三個も食べたんだ。おばさんはいくら食べてもいいわよってニコニコしてた。あんなのあれ以来食ったこと無い……」

 未央の視線に気付いて、話しを元に戻す。

「俺、どうして向坂さんちはこんなに美味しいケーキがあるのかって不思議で、おばさんに訊いたよ。そしたら――」

『おじさんが宝石を売る仕事をしていて、お金持ちの人の家に呼ばれて行くとお土産にってよくケーキやお菓子を貰うのよ』

『宝石売ってるならお金いっぱい持ってるはずだろ?だったらどうしてこんなちっちゃいマンションに住んでるの?』

『そうよね、変よね』

 不思議そうに首を傾げた響に、千聖の母が微笑む。

『じつはね、おじさんは宝石が大好きで色々研究していて、珍しい石が手に入るとそれを欲しいって言う人が居ても絶対に売らないの。だから宝石はあるんだけどお金は無いのよ』

「―― っておばさんが言うから、『珍しい石ってどんなの?教えてくれたら、今度俺が河原で見付けて来てあげるよ。河原だったらお金いらないだろ?』って。馬鹿だよな」

 響はまた頭を掻いた。

「千聖のお母さんは何て言ったの?珍しい石の事」

 急かすように訊いた未央に、響は続きを話し出した。

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