DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「嬉しそうですね」
「ええ、とても嬉しいわ」
「俺が恐くないんですか?いざとなったら、あなたを殺してでも逃げるかも知れませんよ?」
また秋江が笑う。
「大丈夫。あなたはそんな事なさらないわ。いいえ、もしそうなっても私はやはりあなたに会えて嬉しかったと思うでしょうね」
「何故です?」
「長い間、あなたに会う日を待っていたからですよ」
千聖はその言葉の真意が理解できず、目を細めて上品な老女を見つめた。
「あなたに、自分の手でこの石を渡したかった。今日まで生き長らえて来たのは、そのためなのですから。いいえ、神がこの時のために私を生き長らえさせたの」
秋江は手の中の【マジカル・ムーン】に目をやり、また千聖へ視線を戻した。
「さあ、こちらへいらして。この石を受け取ってちょうだい」
千聖は髪を掻き上げて微笑むと、秋江に向かって歩き始めた。
静かな部屋の中を進み、やがて秋江の前に立ち止まった。
「どうぞ、手に取って確かめて」
差し出された石を指で摘みあげる。
それから光の射し込む縁側まで戻り、月に翳して見た。
紫色の石の中に、白く丸い月が見える。
その月は石の角度を変えるに連れ、徐々に三日月に変わり―― 再び満月へと戻って行った。
(思ったとおりマニフェストクォーツか)
透明な紫の石の中に透明度の低い白く丸い石と、やはり透明度の低い黒っぽい石が並んで存在している。
その二つが、月の満ち欠けを作り出すのだ。
「月食を見ているようでしょう?」
秋江は話し掛けながら、車椅子を千聖のすぐ脇に停めた。
「確かに美しいですね。でも……何故これを俺に?」
「だってこの石は、元々あなたの物でしょう?」
千聖が視線を石から秋江へと移す。