DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「あなたの御父様、向坂裕一氏があなたのためにと集められた物。そうでしょう?」
「そんな事、どうして知っていらっしゃるんです?」
「理由は―― あなたは既に知っているわ。だから石を集めている」
秋江は、スラリと背の高い千聖を見上げて微笑んだ。
その微笑みは実に穏やかで、どこか懐かしささえ感じられた。
千聖は参ったという風に、小さく肩を竦めてみせた。
「全てお見通し―― ということですか……。なら、ハッキリ訊きましょう。あなたは父と母から石を奪った七人の中の一人ですね?」
「―― ええ。そうよ」
ズバリと核心を突かれたにも関わらず、秋江は何故か満足そうに肯いた。
「私は、悪魔の囁きに耳を貸してしまった七人の中の一人……罪人なのです」
思わず目を閉じて天を仰ぐ。
分かってはいた。
秋江が【マジカル・ムーン】を持っていると知った時から、この優しげな女性も殺人者の仲間なのだと。
千聖は拳をギュッと握り締め、唇を噛んだ。
慈しむように千聖を見つめていた秋江は、池に映り込んだ月へ目をやった。
「私は、あれからずっと隆利さんの孫であるあなたを待っていた」
「えっ?隆利――?」
思いも掛けない名前をその口から聞き、千聖は秋江に視線を戻した。
隆利――
佐々木隆利は千聖の祖父の名だ。
「なぜ祖父の名を……」
「ええ、あなたはあの人の孫。私が、生涯で唯一人愛したあの人……隆利さんの可愛い孫なの」
呟いた秋江の目に涙が光る。
千聖は黙ってそれを見つめた。
「向坂裕一氏に初めてお会いした時は、全く気付きませんでした。余り似ていなかったし、名字が違いましたから。でも何度かお会いしているうちに、話しの中から彼が隆利さんの息子である事、隆利さんはもう無くなっている事を知りました。そしてあなたという孫まで居ると。いつかお会いしたいと思っていました。でも……」
秋江は紫色の膝掛けへ視線を落とすと、自嘲気味に微笑んだ。