DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「もう隆利さんに合わせる顔がありません。自分では手を下さなかったとはいえあんな計画に関わって、そして孫のあなたを悲しませたのですから。私を憎んで下さい。罵って下さい。それであなたの気が済むなら、何をなさっても結構よ。そうすれば後悔でいっぱいのこの心も、少しは休まるかもしれませんから」
真っ直ぐに千聖を見た秋江の目は、悲しみに溢れていた。
長い間苦しんで来た―― そう語っていた。
千聖は静かに口を開いた。
「あの日の事……父と母が殺された時の事。そしてその理由を話して頂けますか?全て包み隠さず」
「あなたがそれを望むのなら、私はそうしましょう」
サワサワと吹く風が髪を乱し、秋江はその薄紫に染めた髪を手でそっと整えた。
「ありがとうございます。でも――」
「でも?」
「それはこの次お会いした時にしましょう。今日は取り敢えずお約束だけと言うことで」
「何故ですの?」
「もう時間が遅いし……お身体に障ります」
不思議そうに千聖の言葉を聴いていた秋江が、フッと微笑む。
「瞳さんからお聞きになったのね?私の病気の事。癌だって言ってらした?」
千聖は何も言えず、微かに唇を動かしかけて止めた。
「正直な方ね。大丈夫よ、私は全て知っていますから。もう僅かしか生きられない事も」
秋江にじっと見つめられ、千聖はまた口を開いた。
「ですから……今度はもっと早い時間に伺います」
「分かりました。ではそうして下さい」
秋江の言葉に肯いて頭を下げる。
「失礼します」
顔を上げ、庭に降りようとした千聖に秋江が声を掛ける。
「お待ちになって」
「はい?」
振り向くと、秋江は静かに微笑んだ。