DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「もう隆利さんに合わせる顔がありません。自分では手を下さなかったとはいえあんな計画に関わって、そして孫のあなたを悲しませたのですから。私を憎んで下さい。罵って下さい。それであなたの気が済むなら、何をなさっても結構よ。そうすれば後悔でいっぱいのこの心も、少しは休まるかもしれませんから」

 真っ直ぐに千聖を見た秋江の目は、悲しみに溢れていた。

 長い間苦しんで来た―― そう語っていた。

 千聖は静かに口を開いた。

「あの日の事……父と母が殺された時の事。そしてその理由を話して頂けますか?全て包み隠さず」

「あなたがそれを望むのなら、私はそうしましょう」

 サワサワと吹く風が髪を乱し、秋江はその薄紫に染めた髪を手でそっと整えた。

「ありがとうございます。でも――」

「でも?」

「それはこの次お会いした時にしましょう。今日は取り敢えずお約束だけと言うことで」

「何故ですの?」

「もう時間が遅いし……お身体に障ります」

 不思議そうに千聖の言葉を聴いていた秋江が、フッと微笑む。

「瞳さんからお聞きになったのね?私の病気の事。癌だって言ってらした?」

 千聖は何も言えず、微かに唇を動かしかけて止めた。

「正直な方ね。大丈夫よ、私は全て知っていますから。もう僅かしか生きられない事も」

秋江にじっと見つめられ、千聖はまた口を開いた。

「ですから……今度はもっと早い時間に伺います」

「分かりました。ではそうして下さい」

 秋江の言葉に肯いて頭を下げる。

「失礼します」

 顔を上げ、庭に降りようとした千聖に秋江が声を掛ける。

「お待ちになって」

「はい?」

 振り向くと、秋江は静かに微笑んだ。




< 174 / 343 >

この作品をシェア

pagetop