DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
けれど、目に映る文字は未央の頭の中には入ってこなかった。
千聖がコメットだったという事実――
それだけが、頭の中を占めていた。
未央は千聖が通り過ぎるのを待って顔を上げ、捲り上げてあったシャツの袖を戻しながらキッチンへ向かうその背中をじっと見つめた。
(コメットは―― 千聖だった。コメットは影のある石を集めている。その石は千聖のお父さんが集めていた物。でも今は他の人が持っている。絶対売らないって言ってたのに他の人が持っている。何故?)
コメットの言葉が思い出される。
『父親が描いた母親の絵を取り返したいあんたの気持ちは痛いほど分かる』
(もしかしたら石は売られたのでは無く、奪われたの?それで千聖は石を取り返しているの?私がパパの絵を捜しているように千聖は石を――)
頭が混乱して、考えが上手く纏まらない。
千聖がコメットなのか知りたかった。
だからあれこれ調べた。
部屋にまで忍び込んだ。
でも、それからどうしたかったのだろう?
新聞を畳んでソファーへ置き、未央は静かに部屋を出た。