DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
パチッと音がして、部屋が明るくなる。
未央は咄嗟に腕を上げて顔を隠した。
「じっとしていた方が身のためだ。動けば君はここで死ぬ事になる」
こちらを向いている猟銃を目にして、心臓が音を立てた。
(この男―― 赤峰だ。影の石を持っていた一人)
赤峰が言葉を続ける。
「また来ると思っていたよ。その絵を狙って」
(えっ?)
赤峰の言葉に、思わず顔の前で交差させた両腕の上から視線を投げる。
「何故分かったのかと言いたそうだな?」
「そうよ。どうしてそう思ったの?」
未央が答えると、赤峰はフッと笑った。
「ディモスが教えてくれた。君が森下画伯の絵を持って行った時、何故かこの絵の前にも匂いを残していると」
(ディモス―― 赤い首輪の犬?)
鋭い牙を思い出して、思わず身構える。
今になってこのあいだの恐怖が蘇って来たのだ。
「大丈夫、安心したまえ。犬はもう居ないよ」
「えっ――?」
「犬はみんな処分した」
「処分―― って……」
「殺したんだ。与えられた仕事もきちんとこなせないような奴は、例え犬でも赦せないのさ。ディモス、フォボスは言うまでも無い。ケルベロスまでコメットに傷を負わせながらも、逃がしてしまうなんて――」
「そんな―― だからって……殺すなんて酷いわ!可哀想じゃない!」
未央はムキになって声を上げた。
その様子に赤峰は笑った。
「仕方ないさ。もう少しで奴を消せたのに、ケルベロスは奴の喉笛に牙を立てなかったんだから。理由は分からない。いや―― ただ一つだけあるとしたら、コメットは犬を飼っていたかもしれないという事かな。その匂いが身体に染み付いていた。メス犬の匂いがね」