DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
(メスの犬?―― リトルだ!リトルの匂いがコメットを救った?そんなモノが?)
赤峰は銃を降ろし、凍りついたように立っている未央に歩み寄った。
まるでこのあいだの犬のように、周りをゆっくりと回る。
「オスはメスに弱い。本能だ。仕方ない」
そうしながら、頭の先から足の先まで舐めるように眺める。
未央はその視線に寒気がした。
思わず唾を飲む。
「私をどうするつもりなの?」
「さあ……どうしようか」
未央の正面に足を止めた赤峰は、顔を覗き込むようにして微笑むと急に話を変えた。
「しかし君は余程あの絵が気に入ったんだね。あんな目に遭っていながら、またここへ来るなんて。だったら何故さっさと持って行かずにこんな所で眺めていた?」
答えずにじっと自分を見ている未央に、赤峰は軽く眉を上げた。
「トラップの事を知っていたのか」
「ええ、知ってたわ」
(やっぱりコメットの言ってた事は本当だったんだ。知らずに絵を動かしていたら――)
その結果を想像して、思わず息を飲む。
開け放たれた窓から入ってくる風が、白いレースのカーテンをゆらりと揺らす。
「解除してやろうか?トラップ」
蔦の葉のざわめく音だけが響いていた中、突然赤峰が口角を上げた。
「えっ?」
「そんなに欲しいなら譲ってやらない事も無い。この絵は元々この屋敷にあった物で、別に俺が手に入れた物じゃないのさ。だから譲ってもいい。君しだいでね」
ニヤリと笑った赤峰がふいに手を伸ばす。
いきなり顎を掴まれ、未央は思わず身を固くした。