DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「いいんだ。あんたが絵を手に入れたら、また取り返しに行くから。石はいつでも取り戻せるから」
未央の目をじっと見つめた千聖が一瞬微笑む。
それは、今まで見た事もない優しい表情だった。
未央は一段と大きくなった鼓動を抑えようと、石を握った手で胸を押さえた。
「そう、石はいつでも取り戻せる。だけどあんたは……あんたを無くしたら二度と取り戻せない。だからいいんだ」
「千聖……」
「………いいんだ」
呟きながら、千聖は未央の肩を掴んだ。
そのまま顔を近付け―― 唇にそっと触れる。
それからハッと気付いたように離れて、背を向けた。
「今のは石のレンタル料だから」
千聖はそう告げると、すぐに部屋へ戻りパタンとドアを閉めた。
窓の外で雀の声がする。
いつの間にか空は明るくなり始めていた。
(千聖―― 今のって……)
そっと唇に手を触れてみる。
胸がドキドキする。
また涙が出た。
未央は千聖の心の中をまだ計りかねていた。