DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 その日の夜。

 赤峰との約束の時間より少し早く、未央はマンションを出た。

 途中何度もポケットに手を入れて石を確かめながら、高台にある赤峰の屋敷へ向かった。

 ところが――

「あれ?何だろう」

 坂を上ると、クルクルと回転する赤い光がいくつも見えた。

 パトカーだ。

 しかもそれは、未央の目指す赤峰邸の前に止まっていたのだ。

 その他にも、沢山の人影とテレビの中継車。

(いったい何があったんだろう?これじゃあ中に入れないわ)

 何気ないふりで近付く。

 カメラマンやメモ帳を持った人も大勢いる。

 未央はその中の一人に思い切って声を掛けてみることにした。

「あの………何かあったんですか?」

「えっ?何?君、この近所の子?」

 記者らしいその人に逆に質問され、未央は慌てて手を横に振った。

「あ、いいえ、友人がこの近くに住んでいて――」

「ああそう、じゃあ知らないか」

「あの、何があったんですか?」

 がっかりしたように背を向けかけた相手にもう一度訊いた。

「亡くなったんだよ。赤峰氏が」

「えっ?」

「ほら、通訳の。君、見た事ないかな?外国の大統領とかが来ると、その傍に影みたいにくっついてたあの赤峰尚人だよ。彼がね、死んだんだ。首を吊って。 自殺だよ」

「自殺――」

 驚いて呟いた未央には気付かず、記者はペンで数回頭を掻いた。

「人って分かんないもんだよね。才能があって金が稼げて女にもてて、おまけにあんなに華やかな生活してて何が面白くなかったんだか」

 未央は耳を疑った。



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