DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 20 ― 揺れ動く心 ―
「向坂、ちょっと来てくれ」
出勤するなりデスクに呼ばれるのは、余りいい気分では無い。
そういう時は大抵、深夜まで走り回らなければならないようなハードな取材があてがわれたりするのだ。
千聖は嫌な予感を抱きながら、デスクの前に向かった。
「はい、何ですか?」
「おう――」
デスクの村岡は千聖の顔を見ると、少し離れた所にいる一人の女性に向かって手招きした。
「重蔵君」
「はい」
千聖の隣で足を止めた人物を、村岡が目で示す。
「向坂、重蔵真紀子君だ」
スラリとしたその女性は、千聖を見て微笑んだ。
「重蔵真紀子です。よろしく」
真っ直ぐに手を伸ばしてくる。
思わず差し出した千聖の手を、真紀子は強く握った。
「向坂です。よろしくお願いします」
見るからに頭の良さそうな美人。
真ん中で分けられたショートボブの髪と、スッと通った鼻筋が印象的だ。
「彼女はアメリカの大学を出て、そのまま二年間アメリカで働いていたんだ。今度帰国してうちへの就職が決まった。街の中の事とか交通事情とか色々分からない事があるだろうから、慣れるまでおまえが面倒見てやってくれ」
「はい。分かりました」
「じゃあ二人とも仕事に戻ってくれ」
その言葉で自分の席に戻り掛けた千聖を、村岡がもう一度呼ぶ。
「向坂」
「は?」